入院したことによって認知症が進むということを、よく聞きます。実際に、一夜にして認知症になる高齢者が少なくないそうなんです。
やむをえず入院しなければならない。でも認知症が悪化するのは心配だ・・・。介護する家族は、悩みますよね。
私も、義父と義母の入院で、いろんな思いをしました。その体験もふまえて、入院中に認知症が進行するのを防ぐ方法を考えてみたいと思います。
入院中にかなり認知症が進行した・・・義父のケース
認知症の症状がなかった人でも、入院すると、認知症を発症することがあります。一時的なもので、退院すると元の状態に戻るのなら、その状態を「せん妄」といって、認知症をは区別しています。
せん妄なら後に入院前の状態に戻るのですが、認知症が悪化したり退院後もそのまま、あるいはさらに認知症が進むというケースもあります。
義父は胃腸の病気や肺炎で何度も入院しましたが、最も大変な入院は、15年前のお正月に肺炎を起こした時です。入院中に認知症が進み、歩くことができなくなり、退院した時は寝たきりの状態になっていました。
入院した時は高熱が続き、酸素マスクをつけていました。ずっと幻覚のようなものを見ていて、変なことばかり言っていました。酸素の器械がボコボコいっているのを見て、「あそこにいる奴らにひどい目にあわされた」「あいつらが来たら追い返してくれ」などと言うのです。
一晩中わけのわからないことをしゃべり続け、朝方になると、やっと眠ります。日中もうつらうつらしていて、夜が近づくとまた険しい顔で「あいつら」のことを話すんです。
この症状は一時的なものだと、その時は思っていました。
ここ何日かが峠だと医師に言われ、覚悟して義父に付き添いました。幸い、熱が下がり、症状が落ち着いてきました。しかし、義父が話すことは、意味不明なことばかり。
もうすぐ退院という時になると熱を出し、入院期間がどんどん延びていきました。義父は入院前にも認知症の症状がありましたが、入院中に一気に症状がひどくなりました。
入院して退院後、義父の在宅介護が始まった
病院に入院して、そして退院。住み慣れた自宅の天井や壁がいつの間にか、見慣れない天井や壁に替わっています。環境が変わり、生活習慣が変わり、目にする人間が変わります。比較的頭がはっきりしている高齢者でも、この変化には対応できなくなるのは当然でしょう。
短期間であるならば、回復する期待も持てますが、入院が長期にわたると、まるで別人のようになってしまうこともあります。義父は自分のことが自分でできなくなり、家族の名前が言えなくなり、孫の顔がわからなくなりました。
面会に来た人と家族の区別がつかなくなったり、病院にいることが理解できなかったり、お金を盗まれたと言い出したり・・・。家族は、義父がもう元に戻ることはないのだと、あきらめないわけにはいかなくなりました。
たった1つ、よかったことは、それまで嫁の私とはあまり会話がなく、遠い存在だった義父との距離が近くなったことです。私のことを初めて名前で呼んでくれました。また、私が「今日はこれで帰るからね」と言うと、私の手を握って離さないのです。私のことを頼ってくれているのだと思い、うれしく思いました。
約5カ月を病院で過ごした義父は、退院して、自宅のベッドで過ごすことになりました。義父の退院後のことについては、また別の機会に書くことにしますね。
入院による認知症の悪化を防ぐために義母に試みたこととは?
義母は5年前に、脳梗塞で入院しました。脳梗塞による認知症の悪化も心配でしたが、リハビリの先生によると、大きなダメージはなさそうでした。でも、安心はできません。入院したというだけで、認知症が進むかもしれないのです。
私は毎日義母の病院に通い、一緒に文字を書いたり計算をしたり、歌を歌ったりしました。義母の好きな池波正太郎さんの本を図書館で借りて、持っていきました。看護師さんには、日中ずっと寝ていることがないように、できる範囲で声をかけてくださいとお願いしました。
義母は、入院中にわけのわからないことを言ったり変な行動をすることはありませんでした。そして、退院後も、それほど大きな変化はありませんでした。でも、その後少しずつ、認知症が進行したように感じます。自分から進んで何かをすることが減り、表情も乏しくなりました。また、日中の睡眠時間が増えていきました。
義母の認知症は進みましたが、入院したことだけが原因かどうかは、正直、わかりません。
入院期間は3週間ほどでした。幸い、体のどこにも麻痺が残ることはなく、今までどおりの生活にもどることができました。
入院中の認知症悪化を予防する!刺激を与えるための方法とは?
高齢者は、環境が変わることによって認知症が悪化しやすいので、できれば入院は避けたいのですが、それは難しいことです。ではどうしたらいいのかというと、できるだけ面会に行き、刺激を与えるのがよいと思います。
でも、それができない人もいるんですよね。家族が仕事をしていれば、休日しか面会に行けません。孫や兄弟、その他の親戚などに頼めるのであれば、少し顔を出してもらうだけでも、刺激になるのではないでしょうか。
ベッドの脇のテレビを見たり、必要であれば音楽が聞けるようにプレーヤーを持っていったり、本の好きな人には本を、何か趣味がある人ならそれに関連するものを、など、何か楽しいものを持っていってあげるのもいいですね。
ベッドの上で過ごすと、いろんなことが面倒になるものです。いつもならテレビを見るのが好きな人でも、億劫になって寝てしまうということもあるでしょう。義母もそんな時がありました。ある程度はしかたのないことだと思います。
億劫な時でも喜ばれるものとしては、写真です。義母に、孫たちの小さなころのアルバムを持って行って見せたら、楽しそうに見ていました。
義母は幸い、12日間という短い期間で退院できたので、こちらからの働きかけも、短期間で終わり、ほっとしました。
振り返って思うことは、そこまで躍起になってやらなくてもよかったのではないかということです。私の中に「義母の認知症は絶対に許さない!」といった気持ちがあったのかなと思います。
認知症は、いずれ進行するものなのです。今はそれを受け入れることができます。
まとめ
高齢者が入院することによって認知症が進行することは、よくあることです。特に入院が長期にわたると、その可能性は高いといえます。
少しでも認知症の悪化を防ぐためには、できる範囲で病室に訪れて、本人と会話したり、脳に刺激のあることをするのがよいと思います。
仕事や家事、他の家族の世話などで、思うように面会できないこともあるでしょう。そういう場合は、本、パズル、音楽など、本人が楽しめるようなものを用意してあげたらいかがでしょうか。
億劫な時でも拒否されないものとしてオススメなのは、アルバム(写真)です。本人の、あるいは家族の写真は、けっこう見てくれますよ。
でも、いずれ認知症は進むもの。「何とかしなきゃ」と思い込みすぎると、あなたが疲れてしまいます。本人が入院している間に、ゆっくり体を休めるということも必要なことだと思うのです。